2012年9月2日日曜日

なぜに医療の情報化が進まないか?


 とあるお役所の人と、「なぜに医療の情報化が進まないか?」という議題を検討する場があったので、その中での話をまとめてみる。だって、外は雨なので。

レセプト請求の電子化の遅れ
 医療ITが日本は後進国になりつつあります。お隣の韓国では医療請求はほぼ完全オンライン化されており、日本がやはり遅れているという状況にあります。この遅れの理由として、やはり計算の単純さがあるわけで、韓国の医療請求はほぼ足し算と引き算だけで構成されているということ。
 日本では長年、医師会と厚生労働省との綱引きの中で、医療改定が行われており、〇〇%減算とかが当たり前になっています。割り算があると、「足し算」と「割り算」の順番が変わることで計算結果が変わるのですから、計算順序まで法定化しないと行けなくなる訳です。実際にはそこまで法定化されていないため、医科点数表の解釈がどんどんと分厚くなってしまうという現実があるわけです。高額療養費の高所得者の「総医療費の1%」なんていうのも、「適正な負担」と「莫大な医療事務の現場のコスト」が見合っているのか疑問に思います。(しかし、難しい計算があればあるほど、医療事務という雇用が守られ、ニチイやユーキャンなどの医療事務学習の産業が存続しているという現実もありますが。。。)

診療情報の情報化の遅れ
 医療請求に関する情報化でも日本は遅れていますが、診療の情報化(EHR)も負けず劣らず普及していません。電子カルテを日本で導入してみると、医療情報課の担当者さんが電子カルテベンダーに文句を言います。「電子カルテにしたのに、役立つ情報がとれない」。実はこれ、電子カルテが悪い訳ではなくって、「医師のカルテの書き方が今まで全く標準化されていなかった」ということが、電子カルテを使ってみて初めて分かったということ。
 例えば、同じ血圧でも「血圧(上)」、「収縮期血圧」、「最高血圧」と、医師や病院によってデータを1元的に取り扱うかどうかが違ってきます。そこが診療の情報化を進めるにあたり、非常に難しいところになっている。現在「オントロジー工学」や「セマンティックWEB技術」を使った文章解析技術で解決を図ることが進められていますが、その前に医大の履修科目に「カルテの書き方」を必須項目とすると、診療情報の二次利用が大きく進むはずです。
 今の日本におけるカルテというのは、「診療報酬で査定されないためのカルテ」になりがちです。本来の「診療を良くするためのカルテ」を普及するためには、カルテ記載の定型化、及び標準化が重要になるでしょう。

国民背番号制導入の必要性
 診療を情報化する上で最重要なのが国民背番号制の導入です。医療機関で診療情報をしっかり分析したところで、その診療によってどうなかったかという結果の情報が得られません。人間死ぬ時が病院の中だけではありません。何時、何処で、どのように死んだかが分かるためには、死亡を取り扱う住基ネットとの連携が必要となります。
 現在、マイナンバー制度が国会審議されており、法案成立は全く見えてこない状況です。しかし、このマイナンバー制度は、総務省の管轄であり、厚生労働省が進める保険証番号との連携がされない見込みです(霞ヶ関の縄張り争いが見え隠れします)。マイナンバー制度を総務省と厚生労働省が一体となって進めて、レセプト請求データと住基ネットを早期に統合されないと、EBM(エビデンスに基づく医療)の実現は難しいと言えます。(医師会団体が国民背番号制度に反対しているという事実は非常に興味深い。。。そんなに税金がry...)