2012年3月25日日曜日

高額療養費の外来現物給付化

高額療養費の外来現物給付化
 2012年度4月より、高額療養費制度が入院だけでなく、外来の医療費についても現物給付化されます。従来、外来の高額療養費については、役所等でまとめて「償還払い」(後払い)されていました。つまり、役所で払ってもらうまで、患者は立て替える必要があった訳です。平成24年4月以降は、役所であらかじめ「限度額認定証」を申請・取得(※)しておけば、医療機関が患者に対して所得に応じた自己負担限度額までしか請求しなくなるため(現物給付されるため)、患者が立て替えることがなくります。
※70歳以上の場合、役所で申請すること無く現物給付の扱いになります。

70歳未満
所得区分自己負担多数該当
上位所得150,000円
+(医療費-500,000円)×1%
83,400円
一般80,100円
+(医療費-267,000円)×1%
44,400円
低所得者35,400円 24,600円

70歳以上
所得区分外来入院多数該当
現役並所得者44,400円80,100円
+(医療費-267,000円)×1%
44,400円
一般12,000円44,400円
低所得者Ⅰ8,000円24,600円
低所得者Ⅱ15,000円

高額療養費は難しい
 この高額療養費制度は、制度自体が非常に難解であり、今まで入院担当の医療事務員を苦しめていました。例えば、患者さんの請求は10円単位に四捨五入されて請求されます。そのため、5点(50円×3割=15円⇒患者請求20円)の診療があった2回あった場合、月で見たら10点だけど、患者請求は40円になります。4月以降、通常の外来でも現物給付化が始まることから、請求の端数が出まくることは想定されます。病院の窓口で10円高いだ低いだのと騒ぐクレーマーが外来窓口を困らせることでしょう。
 さらに、特定疾患等の公費があった場合には、さらに最低です。レセプトに記載する「医療の1%」の計算が変態的に難しいのです。今後、診療所のレセプトチェックでも、電卓を弾く時間が多くなることが想定できます。

高まる医科向けソフトウェアの参入障壁
 外来現物給付化が始まることで、診療所市場等で販売されている中小の電子カルテベンダーが疲弊し、撤退する会社が増えることが想定できます。もともと、大手ベンダーによる寡占状況が続いた医科向けソフトウェア市場は、他のソフトウェア市場よりお値段が高いです(中小の電子カルテベンダーが参入したことで、市場価格が若干下がりました)。特に医科のレセコンベンダーは調剤のそれに比べ、扱っているベンダー数が少ない。それは、高額療養費を含めた、医療報酬制度が調剤に比べ難解であるため、参入障壁となるからです。
診療報酬制度は医師会と厚生労働省との綱引きにより決まっています。綱引きの中で、条件が設けられ、診療報酬制度は更に複雑になります。つまり、医師会と厚生労働省が綱引きをすればするほど、医科向けソフトウェアの市場価格が高く維持される結果になるということです。

医療請求制度は社会的コストが高すぎる
 医療機関は正しく請求するために、高価なレセコンやレセプトチェックのソフトウェアを購入し、審査支払機関は独自のソフトウェアでチェックを行い、各保険者でも別にソフトウェアを作成してチェックする。診療報酬改定があるたびに、別々にソフトウェアを改造しているこの状況は、社会全体から見たら、単なるお金の無駄遣いにしか思えません。みんなが安く利用できるレセプトチェックシステムがクラウドで提供されれば、社会的コストは大幅に下げれます。そうなると審査支払機関がソフトウェアをオープンソース化して公開すれば、全体的な社会的コストは大幅に下がるのですが、審査支払機関自体の必要性が無くなってしまうため、審査支払機関はきっとしないでしょう。
 お隣の韓国では診療報酬の電子化が日本よりも圧倒的に早く進みました。それは、診療報酬制度が簡単だったからです(日本では30%減とか普通ですが、韓国では基本足し算と引き算だけです。)。逼迫する医療保険制度をなんとかするため、診療報酬制度を変えていくのはいいのですが、処方せん改定みたいな効果のないことするぐらいだったら、社会的コストを押さえるように、厚生労働省にはもう少しシンプル制度設計してもらいたいです。


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