2012年3月4日日曜日

優秀な現場の人がパッケージをだめにする


3月1日のとあるドラマ
201X年3月1日、地方銀行向けパッケージの開発ルームでは、異様な雰囲気の中、メンバー全員がその日の朝を迎えた。その日は北海道、長崎、そして兵庫の3つの銀行で一斉に稼働する日であり、多くのメンバーは現地に立ち会う等の臨戦態勢が敷かれていた。稼働後2時間が経った朝10時頃、開発チームに同時に2つのトラブル報告が入った。いずれもデータベースがダウンし、待機系システムに切り替わったという致命的な内容だった。開発メンバーの一人がデータベースのログを調査し、データベースがダウンした原因が接続プロセス数の制限を超えたことよるものと判明したため、急遽、現地で立ち会っているフィールドSEにパラメータ設定とシステム再起動を指示した。昼12時に、最高責任者である事業部長は、事態の改善を行うべく、担当部長と担当課長を現地投入することを決断した。昼13時、運用系システムの再起動が行われ、それぞれの銀行で運用系システムに無事切り替わったとの報告があった直後、更なるトラブルが現地から報告された。運用系システムの発番プログラムが正常動作せず、データ重複によりシステムエラーが複数で発生し始めた。事業部長はさらに現地に開発メンバーを投入し、早急にデータ復旧を行うよう、迅速に指示を出した。事業部長は「お客様のシステムを決して止めてはいけない」と鼓舞し、開発メンバーを送り出した。。。

隣のプロジェクトで起きていた今週の出来事をシリアスタッチに書いてみました。そのトラブルの様を見ながら思ったことは、「ちゃんとトラブらないモノを作ろうよ」です。

パッケージ開発の失敗例
このパッケージは大規模向けに販売されていたパッケージを移植して、中小規模向けに販売するというコンセプトの商品でした。データベースの変更に伴うプログラム修正は中国でオフショア開発され、日本ではプロジェクトマネージメントを中心に作業するという方法で進められました。いわゆる品質指標も丁寧に数値化されていたため、一定の品質が担保できているだろうという認識でした。
ところが、ふたを開けてみると、移植元のパッケージがぼろかったりとかして、トラブルが続発しています。バグがあっても、一体誰が作り込んだのかがさっぱり分からないようで、早急に修正できないという困った状況です。さらには、稼働させるためにはデータベースのチューニングなどのSE作業が必要となるため、初期導入費用がかかってしまい製品競合力も低いです。まさにパッケージ開発における失敗のオンパレードといった感です。
サポートしている同僚は自嘲的に言いました。「生まれてこなければ良かったのに」。まさに不毛な子です。

優秀なSEとパッケージのジレンマ
私が勤務する会社は大手の日本法人のIT会社で、星の数ほどパッケージ製品をリリースしていますが、利益になるパッケージはほとんど存在していません。この理由は、優秀な現場のSEが数多くいるから、良いパッケージが生まれないというジレンマだからだと思います。現場で働く有能なSEが存在するから、場当たり的になんとかしてしまうから、パッケージにフィードバックされないのではないかと思います。
当の私もパッケージを開発していますが、粗利益が非常に高いです。その理由は、インストーラー、導入ツール、マニュアル、プロモーションツール等の「仕組み」が充実しているからです。「仕組み」が充実していると、25〜30歳くらいの若い女性インストラクターさんで導入できます。導入費が安くできます。なんとかやりくりしてくれる優秀なSEさんが存在してしまったら、この「仕組み」を作ろうという気持ちになりません。現場の人が「楽して儲け」させるように「仕組む」思考がパッケージ開発には必要なのです。
今回のリリースされたパッケージの場合、「有能な現場SEを最大限に活用する」というコンセプトが存在しました。しかし、このコンセプト自体がパッケージには合わないということを経営者が理解できなかったのが根本原因だと考えます。

日本人は「仕組み」が下手
歴史を振り返ると、日本人は「仕組み」を作るのが下手な民族性だと思います。社会に存在するほとんどの「仕組み」は欧米から持ってきたものが実際に多い。しかし、それは、現場の日本人が優秀すぎるというジレンマだと考えられます。
例えば棚田とかを見ると、年貢が厳しい中、農民が工夫して作り上げた芸術作品です。ですが、牛も入れないような田んぼなので、効率的とは言えません。これも優秀な日本の農民が場当たり的になんとかしちゃったのでしょう。エルピーダメモリの会社更生法についても、グローバル時代の中でDRAMを販売するというのは厳しい状況であったにも関わらず、優秀な現場の人が場当たり的にコストダウンに取り組んだために、撤退という経営判断が行われずに、今の今まで持ってしまったのだと考えられます。この前の日本の戦争においても、世界で最も優秀な現場の兵隊が存在したから、明確な戦略という「仕組み」を大本営が見いだせず、結果、あのような悲惨な状況になったと考えられます。
「仕組み」を作れる人になるためには、「真面目」じゃだめで、「楽して儲ける」的な発想が重要かなと思います。しかし、この発想は、従来の日本の美徳に反するところがあるようです。実際にうちの会社の執行役員常務と話をする機会があったのですが、私の主張する上記の話についても「上手く行ってるビジネスの上であぐらかいてんじゃねぇ」的なことを言ってました(この人の経歴を調べたんですが、うちのプロジェクトのような粗利を稼げるビジネスが一つもない部署のご出身のようでした)。これからのグローバル時代で乗り切るためには、このような割り切った発想を持つことが重要なのではと思います。

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